つい先日、タイの高僧をめぐる事件が大きな話題となった。
すでにご存知の方も多いことと思う。
事件の概要は以下の通り。
『タイ中部アユタヤ県の由緒ある寺院の元住職(66歳)が、寺院の寄付金など約9200万バーツ(約4億3000万円)を不正流用した疑いなどで逮捕された。さらに、寺院内で47歳の女性と性的な行為をしていた防犯カメラ映像が拡散。捜索では、この2人から現金や金塊など約10億円相当の資産が押収された。高僧は事件後に還俗し、金銭をめぐる容疑は否認している一方、映像の内容は認めているという。警察は、資金の流れや他の関係者についても捜査を続けている。』
特に、僧侶が女性と性的関係を持つことは、仏教に対する信頼を失墜させる重大な問題として受け止められている。
こうした事件では、多額の金銭をめぐる問題が同時に取り沙汰されることも少なくない。
僧侶が女性と性的関係を持つことは、上座仏教の律において最も重い『波羅夷罪(はらいざい)』に当たる重大な違反である。
波羅夷罪を犯せば、僧団から永久に追放され(=強制的に還俗させられる)、その後も再び比丘として出家することも認められないほどの重い違反である。
タイで、このような事件が大きく報道されるのは、単なる“ゴシップ”としてとりあげられているわけではない。
そこには、仏教に対する篤い信仰と揺るぎない信頼が、今なおタイの社会の中に生きていることの現れであると見てよいのではないだろうか。
私は、そのように思っている。
つまり、『あってはならないこと』だからこそ、大きく報道されるのである。
さて、今回の高僧の女性問題について、私が指摘しておきたいと感じたことがある。
それは、仏教教団に“自浄作用”が働いているという点だ。
非常に大切なことであり、重要なことである。
今回の事件では、僧侶の女性問題だけでなく、寺院の寄付金をめぐる不正の疑いなども捜査の対象となっている。
女性との性的関係については、律に基づいて極めて重大な違反として強制的に還俗させられ、住職という地位や職務はもちろん、“僧侶”の身分というか僧侶であるという資格そのものを失っている。
たとえ住職や高い地位にある者であったとしても、地位云々の前に僧侶であるわけであるし、戒律の定めそのものが変わるわけではない。
僧団からの追放、すなわち強制還俗は、あくまでも仏教教団内における判断であり、その根拠となるのは律である。
つまり、律が毅然として運用されているのだ。
その一方で、警察による捜索や逮捕、金銭の不正流用などについての捜査は、世俗の法律に基づいて行われる。
つまり、戒律違反(破戒行為)に対する僧団内部の処分と、法律に違反した場合の世俗社会における刑事上の責任とは、分けて考える必要がある・・・この点は、タイの仏教の非常に興味深いところだ。
今回のような事件では、この二つの領域が並行して進められているわけである。
僧団内部には、破戒行為は許さないという厳しい姿勢がある。
僧団内部だけではない。
在家の側にもまた、僧侶には僧侶として“あるべき姿”を求める厳しい“眼”がある。
それだからこそ、こうした事件が明るみに出て、問題として徹底的に追及されるのである。
私は、そこに仏教教団としての『自浄作用』の一端を見ることができると感じている。
仏教への信頼を失墜させる大変残念な事件ではあるけれども、『自浄作用』が働くということは、非常に素晴らしいことではないだろうか。
タイでは、多くの男性が一時的に出家し、僧院生活を経験する。
もちろん、その知識や経験、体験の深さは人それぞれである。
何年も比丘として出家生活を送る者もいれば、数日の出家で終わる文字通りの三日坊主もいる。
それぞれに価値がある。
幼い頃から仏教に触れ、出家や僧院生活を身近なものとして経験することは、タイ社会における仏教のあり方を考えるうえで、非常に重要な意味を持っている。
たとえ短期間であったとしても、出家や僧院生活を経験することは、僧侶とはどうあるべきなのか、そして仏教徒としてどのように生きるべきなのかを考える善き機会になるからだ。
それは、仏教教団を安定的に維持し、僧団の“清浄さ”を保っていくうえでも、とても大きな意味を持っているのだ。
もちろん、タイ国内においても仏教の堕落や僧侶の問題行動が指摘されている。
今回のようなニュースを目にすることは、仏教を学び、実際にタイの僧院で出家生活をさせていただいた私にとっても、決して気持ちのよいものではない。
しかし、そのように感じる一方で、何か問題が起きたときに、それを『仕方がない』と放置をしたり、見て見ぬふりをしたりするのではなく、律に照らして適正に処理し、僧団内部の側からも、在家の側(社会の側)からも厳しくそれを問う。
そうした姿を見たとき、私はタイの仏教には、今なお間違いなく『自浄作用』が働いているのだと感じるのである。
■参考文献
・事件の概要
(下記URLの文献より)
『タイ中部アユタヤ県の由緒ある寺院の元住職(66歳)が、寺院の寄付金など約9200万バーツ(約4億3000万円)を不正流用した疑いなどで逮捕された。さらに、寺院内で47歳の女性と性的な行為をしていた防犯カメラ映像が拡散。捜索では、この2人から現金や金塊など約10億円相当の資産が押収された。高僧は事件後に還俗し、金銭をめぐる容疑は否認している一方、映像の内容は認めているという。警察は、資金の流れや他の関係者についても捜査を続けている。』
・出典
【高僧が寺院で元チアリーダー女性と
行為する防犯カメラ映像が拡散
「ぎゅっと抱きしめ、テーブルの上に仰向けに」
…寄付金など約4億円横領の疑いも【タイ】】
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b96993018fde4b30c79c85c05fafbad70da716a
(※10/9現在、記事は削除されている)
https://article.auone.jp/21080690-2898-482f-af82-8da2e71cba01
(※auWebポータル・配信元は上段の記事)
(『タイの仏教における『自浄作用』を考える ~高僧の女性問題から見えてくるもの~』)
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