近年、瞑想の流行とともに、さまざまな瞑想の“流派”というか、さまざまな瞑想方法が錯綜し、混在するような状況となってきたように感じている。
その象徴的存在とも言えるのが『マインドフルネス』と称される一群の瞑想だろう。
“一群の”としたのは、『マインドフルネス』と称されているからといって、その手法やルーツは同一であるのではなく、さまざまな瞑想法が混交したものであることから、このように表現した。
私は、マインドフルネスの用語的意味はまた別として、非常に大雑把な表現ではあるが、ストレス対処法として、あるいは仕事のパフォーマンスアップ等を目的として実践される精神的訓練の包括的呼称が『マインドフルネス』なのだと思っている(少なくとも、大きくは外れてはいないと思う)。
拙ブログは、日本で『マインドフルネス』という用語が一般に知られるようになる以前から発信を続けているが、当初は、瞑想を横文字に言い換えたものであるといった程度にしか考えていなかった。
ところが、流行の波が大きくなり、知れば知るほど、仏教、特に上座仏教(テーラワーダ仏教)におけるヴィパッサナーの瞑想とは似て非なるものであると認識するに至った。
マインドフルネスのなかでも主流となっている手法は、ヴィパッサナーを手本とするものであり、必然的に大変よく似たものとなる。(ただし、マインドフルネスにもいくつかの流れがあり、そうではないマインドフルネスもあり、マインドフルネスと称しているからといって同一ではない。)
すなわち、ヴィパッサナーとマインドフルネスとは、その根底にある理念や目的とするところが全く違う。
これは、例えて言うならば、スポーツを単に娯楽として楽しむのと、競技として研鑽を積むのとでは、自ずとその目的も実践も異なってくるのと同じである。
娯楽として楽しむのであれば、楽しむことが目的だ。
どのように実践しようとも、どのようにルールややり方を改変しようとも構わない。
しかし、競技として研鑽を積むのであれば、そのようなわけにはいかない。
意義も意味も目的も、確固たるもののはずであるし、正しく実践されることが求められる。
そうでなければ、勝利は得られないし、高みにまで到達することはできない。
思考を鮮明にしたり、あるいは心に癒しを求めたり、生活や人生に活力を求めるために、『瞑想』というものに意義を見い出し、その実利的結果を得ようとしたりするのも、瞑想のひとつのあり方ではあるだろう。
しかし、本来は、止(サマタ)と観(ヴィパッサナー)によって、『無常』・『苦』・『無我』というこの世の中の真実の姿や真実のあり方をよく知り、それらを観察し、洞察していくという明確な目的を持つ仏教の実践行なのである。
すなわち、瞑想することで特定の何かを得ようとしたり、特別な何者かになろうとするものではなく、また何かを解決するための“技術”などではないのだ。
あえて言うならば、いかに苦しみを減らしていくのか、いかに煩悩というものに翻弄されない生き方をしていくのかがその目的であると言えよう。
自分自身の感情や思考、その時の状況の混乱や困惑を受け入れる。
まずは、自分自身が自分自身の今ある姿をしっかりと認めることだ。
そして、その状況に対して、より適切な選択と行動とによって、よりベストな対処や対応を行っていく。
つまり、適切に行動をしていくということである。
こうした一連の行動によって、自身はどのように変わり、さらに、その先、どのように歩んでいくのかということを常に問うていくのである。
何事も生じるだけの原因や縁起は、必ず存在しているのであるし、必ずそれらに基づいている。
そのうえで、いかに最善の選択をしていくかにあるのであって、一言で表現をするならば、瞑想とは、思慮深さを養うものだと言える。
ただ知って、気づいて終わるのではない。
ただ観察し、洞察をして終わるのではない。
ただ受け止めて、それで終わるわけではないのである。
諸々の事象に対する執着に、どのように対応し、どのように対処していくかだ。
さらには、人生の問題、すなわち生死の問題に対して、私はどのように受け止めて、どのように行動していくのかにある。
より最善で、より適切な選択と行動を積み重ねてこそ、仏教の実践行であるということができる。
この点の有無がマインドフルネス、特に実利的な面を目的とするマインドフルネスとの決定的な相違点である。
マインドフルネスでは、人生の問題や生死の問題を解決することはできないと断言しておく。
瞑想とは、きちんと自分で考えて、正しく行動していくことを教えているものである。
実践を繰り返しながら、心を磨き続けていくものなのである。
それはそのまま、仏教の実践行であるのであり、同時に人生そのものの学びとなるのである。
(『マインドフルネスの流行とヴィパッサナー』)
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