現代社会において、どこまで日常生活を質素にできるだろうか?
少し身の回りを見渡してみれば、確かに不要なものはたくさんある。
いや、溢れかえっていると言ってもいいのかもしれない。
一方で、不要に思えるけれども、実は、必要なものもたくさんある。
不要だとはいっても、やはりそれらは生活上必要なものばかりだ。
さらには、これは絶対に欠かすことができないような、必要不可欠なものももちろんたくさんあるから厄介だ。
タイの森の修行寺での出家生活で感じたことは、“本当に”必要なものというのは、実はごくわずかであるということだ。
そして、ないならないでそれほど困ることはないということだ。
不要なものは、身の回りにないほうがむしろ心は軽くなり、とても穏やかになる。
心の重荷、すなわち、苦しみの原因となる“縁”を作らず、できるだけ遠ざけながら生きる。
善き生活習慣を作りながら、その中へ身を置いていこうとする、いかにもテーラワーダ仏教らしいあり方である。
善き生活習慣を作りながら、その中へ身を置いていこうとする、いかにもテーラワーダ仏教らしいあり方である。
ある森の修行寺の比丘の住居(クティ) |
しかしながら、心が穏やかになるとはいっても、これは、あくまでも在俗生活との比較である。
出家生活は出家生活で、思わぬところから己の“こだわり”が出て来たり、己の本性を見せつけられたりするから実に辛い。
そのたびに、人間が持つ執着というものの根深さを思い知らされるのである。
物を得たならば、当然のことながら所有することになる。
所有したならば、次はその所有を維持しようとするだろう。
さらには、その所有を維持し、守っていこうとする。
そこに悩みが生じ、苦しんでいるというのが私たち人間の姿だ。
そこに悩みが生じ、苦しんでいるというのが私たち人間の姿だ。
出家生活の場合、出家者個人に所有が許されているのは三衣、鉢、針、糸、水こし器くらいのもので、その他の物品は基本的には個人で所有することはできない。
もっとも、私は外国人なので、それ以外にもパスポートやタイ語の辞書などを所有していたのだが、生活上で必要なものは全てお寺のものを使用させていただくというのが原則だ。
町のお寺であれば、それほど戒律には厳しくないので、質素ではない生活の場合もあるのだが、特に森の修行寺での出家生活は、実に質素な生活である。
ところが、そんな何もない非常に質素な生活であるのに、いわば「出家の喜び」のようなものがある。
在俗のものを全て手放した喜び、爽快さ、晴れやかさとでも表現しようか。
その感覚は、在家生活における一般的な「喜び」とは全く異なった感覚だ。
心が軽くなるというか、非常に清々しくなるというか、言葉では表現することができない感覚がある。
心が軽くなるというか、非常に清々しくなるというか、言葉では表現することができない感覚がある。
それは、おそらく、守るべきを持たない清々しさなのではないかと思う。
私たちは、日常生活の中で一体いくつの“守るべき”を作っているのだろう。
それらは、勝手に自らが作り出しているに過ぎないもののはずである。
近年、「断捨離」であるとか、「ミニマリスト」であるとかいった言葉が流行りのようである。
現代社会において、どこまで必要最低限の生活、あるいはどこまで質素な生活を実践できるものなのか、これらのブームは非常に興味深い。
私は、日本の「清貧」という思想や古の志ある僧侶が暮らしたような庵での生活に憧れることがあるし、そうした考え方や生き方が好きである。
まさにタイの森のお寺での生活は、そうした古の生き方を彷彿とさせる生活だった。
それだけに、古の僧侶への憧憬と、今私の目の前にその生活があるという感動が重なったのである。
パソコン然り、スマートフォン然り・・・さまざまなものに囲まれながら、ふと、ないない尽くしだった出家生活に思いを馳せる時がある。
こうして発信しているブログひとつとっても、無くなってしまったならば、心は大いに乱されてしまうだろう。
現代社会と質素を旨とする生活との兼ね合い・・・背反するようにも思えるこのふたつの両立は、非常に難しいのかもしれない。
しかし、難しいで終わってしまうのではなく、その姿勢を常に忘れず、常に心に留め、常に自己へ問いかけていくこと、そして心がけていくことこそが大切なのではないかと私は思っている。
私は、そうした仏教の生き方こそを出家生活を通じて学んできたのだから。
(『質素な生活を旨とする生き方 ~森の修行寺~』)
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