思い出は、時に美化されることがある。
タイの森の修行寺での生活がたまらなく懐かしくなる時があるのだ。
決して自由気ままな生活ではなく、生活上の制限を伴った、在家生活とは全く異なる価値観のもとで、それなりの厳しさを伴う生活であったにも関わらず、である。
タイの山奥にある山寺での修行生活は、世間のあらゆる情報から遮断された世界だ。
しかしながら、全く遮断されているのかと言えば、実は、そうではない。
“風の便り”と言おうか、おおよその世間の情報は、それなりに聞こえてくるものである。
当時、世界的に流行った疫病である『SARS(サーズ)』も『鳥インフルエンザ』も、実は、世間でどれだけ蔓延していたのかをよく知らない。
当然のことながら、日本がどのような状況であったのかなど全く知らない。
ちょうど、その頃にタイで出家、森の修行寺での生活を送っていたからだ。
私が出家したチェンマイの山寺をはじめ、タイ各地の瞑想センターや森の修行寺などで瞑想に打ち込んだ。
数あるタイの修行寺のなかでも、厳しいお寺ばかりを選んできたため、外部との接触は少なかった。
しかし、情報から遮断された修行寺と言えども、比丘も、在家者も、常に滞在者の入れ替わりがある。
そのようななかで、それとなく情報が入って来るのだ。
私の場合であれば、自由自在に操れるほど言葉が堪能ではないから、こちら側から世間での出来事について尋ねない限り、私の元へと詳細なニュースが入って来ることはない。
日本の生活ではおそらくあり得ない、これほど情報から遮断された生活もなかなかよいものだと思う。
新たな疫病が現れて、世界的に蔓延してはや3年。
ニュース程度は見るのであるが、普段はテレビ番組を見ることはあまりない。
タイの森の修行寺での生活と同様で、テレビは見ないが、特段何もせずともある程度の情報は入ってくるものだ。
特に近年は、インターネットを確認すれば多くの情報が得られるし、手元のスマートフォンからでも容易に得られる。
自宅から出れば、人とも話すし、それとなく耳に入ってくる他者の会話などからも、嫌でも情報が耳へと入ってくる。
日本でごく普通に生活をしていれば、完全に情報から遮断されるということはまずないということだ。
日々、必要・不必要、有益・無益に関係なく、これだけ多くの情報に囲まれ続けていると、情報から遮断された世界というものが時々恋しくなってくることがある。
タイでの出家生活は、ただひたすら瞑想に専念する時間であり、空間であった。
ある意味では、非常に贅沢な時間であり、実に善き時間を過ごさせていただいた思う。
情報が遮断された生活へと入ると、すぐさま自己の心から『多く』という言葉では表現できないほど多くの感情が噴き出てきたり、湧き出てきたりする。
本当に“噴き出る”であるとか、“湧き出る”といった表現がピッタリなのだ。
そうした感情と真正面から対峙するのが『瞑想』の生活であり、出家の生活なのだ。
普段の生活では、たくさんの情報にただただ翻弄されてしまうばかりで、自己の感情が誤魔化されている状態だ。
自己の本当の思いであるとか、本音の部分の欲求には全く気がつかない。
“自己の本当の思い”であるとか“本音の部分の欲求”などと言えば、非常に綺麗に聞こえるのであるが、一般に想像されるような小綺麗で美しいものとは全く違う。
とても汚い感情の部分だ。
この自己の感情と徹底的に向き合っていかなければならないということが、私が瞑想修行のなかで最も辛いと感じたことだ。
一日一食しか食べれなかったり、お酒が飲めなかったり、歌や踊りが見れなかったりなど、なんの苦痛でもない。
瞑想によって、感情を観察していかないといけないわけであるが、瞑想上のレベルが十分に追いついていないと、出家生活が長くなればなるほど、心理的、精神的に、徐々に辛くなってくる。
ここに瞑想生活というか、出家生活の厳しさがある。
必ずしも有益とは言えない情報で溢れかえっている日本の生活。
厳しくも、静寂だった森の修行寺での日々を時々思い出す。
煩わしささえ覚える溢れかえる情報をどのようにして捉え、どのようにして観て、どのようにして取捨選択をしていくのかは自分次第だ。
自らの精神的苦痛によく気づき、よく観察していくしかない。
苦痛は、私の心の外にあるのではない。
自身の感覚や思考をそのまま受け止めて、気づきと観察を重ねていく。
それが、日本での在家生活の中での瞑想修行だろう。
(『森の修行寺での日々を思ふ』)
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