私は、仏法僧に帰依し、無常・苦・無我を奉ずる仏教徒であると思っている。
ゆえに、大乗仏教もテーラワーダ仏教も同じ『仏教』であるとの認識だ。
タイで出家をし、学ばせていただいた関係上、もちろんタイ贔屓ではある。
実に多くのことを学ばせていただき、育てていただいた恩は、山よりも高く、海よりも深いと言っても過言ではない。
ゆえに、タイの仏教のことを批判的に言われれば、やはり心おだやかではないこともある。
さて、日本人の中には、時々、日本の仏教のことを露骨なまでに毛嫌いされている方がいらっしゃる。
よく話を聞いていくと、日本仏教そのものへの批判ではないことに気がつくはずだ。
実は、このようなタイプの方は、日本の仏教の教義内容をよくご存知ではない場合が多い。
日本の仏教というよりも、大乗仏教そのものもよくご存じではない場合が多いのである。
日本仏教を毛嫌いする人たちや辛辣な批判を加える人たちから、日本仏教の「教義」そのものに対する批判や反論は、一切聞かないことがそれを裏付けているのではないだろうかと思う。
ちなみに、大乗仏教は創作だとか、ブッダの言葉ではない、という批判を頻繁に聞くのであるが、テーラワーダ仏教と大乗仏教の立ち位置の相違を度外視しているため、全く論理的でないと私は考える。
もし、批判を加えるとするならば、テーラワーダ仏教と大乗仏教の双方を深く知ったうえでなされなければならないだろう。
なお、テーラワーダ仏教はブッダが説いた直接の言葉そのままだとする説は、仏教の歴史を考えると全く当てはまらず、古い形態を留めた仏教であるということは言えたとしても、大乗仏教とさほど変わらない。
ともあれ、テーラワーダ仏教のことを教学的立場を踏まえた批判を加えるのは、僧侶か日本の仏教に詳しいごく一部の人たちに限られる。
日本の仏教の教義内容にはそれほど関心がなく、またよく理解もしていないというのが世間一般の実情なのではないだろうか。
それでは、何をもって日本の仏教を嫌い、何をもって激しく批判を加えるのだろうか。
それは、率直に言えば、僧侶の姿勢と生活態度だ。
酒を飲み、金を勘定し、高級車を乗り回す僧侶への批判である。
余程、嫌なことでもされたのだろうか。
相当辛辣な人や嫌悪感を示す人が多い。
日本の僧侶に抱く印象は、「酒」と「金」と「葬式」しかないと答える人は多く、私の知る限りイメージは良くない。
日本の仏教など、一度、全て無くなってしまった方が良いのだと、ど真剣に語る人も一人や二人ではない。
僧侶の知人をたくさん持つ私からすれば、日夜仏法のことを考え、仏法を広めるために奮闘している方は多い。
その点が注目されないことは、非常に残念である。
だが、それ以上に日本の仏教、特に僧侶の印象が地に落ちている。
この一点が日本仏教全体を印象付けているのだと思う。
タイ人であっても、学者でもない限り、深く仏教の教義内容を理解している人は少ない。
とは言え、仏教の基礎的な理解については、誰もがしっかりと持っている。
タイにだって、素行の悪い僧侶もいれば、時々、破戒やここでは書けないようなスキャンダルも聞く。
どこの世界であっても一定数は、こうした輩がいるものだ。
問題は、その割合だろう。
しかしながら、生活態度や仏教に対する姿勢でいえば、日本の仏教はお世辞にもタイと同じであるとは言い難い。
それどころか、到底、タイを上回ることはない。
もしも、日本人の日本仏教批判の的が僧侶の生活態度の一点であるとするならば、日本の仏教は、まだ可能性があるのではないだろうかと思う。
逆に言えば、僧侶の姿勢と生活態度が改められれば、日本人の心をつかむことができる可能性を求めることができるということなのではないかと思うのだが、果たしていかがだろうか。
それにしても、日本人僧侶からは、小乗だと揶揄され、タイ人僧侶からは、日本の僧侶は、酒を飲んで、結婚をして、家族を持っていて、すでに仏教ではないと批判され、私はなかなか辛い立場である。
しかし、私は、どこまでも、仏法僧に帰依し、無常・苦・無我を奉ずる仏教徒であり、大乗仏教もテーラワーダ仏教も同じ『仏教』であるとの認識に変わりはない。
(『大乗仏教とテーラワーダ仏教のはざまにて~日本人の仏教批判の的~』)
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