身・口・意の所作(動作・行為全般のことをさす)を業と名づけ、未来に果(結果)を招く因(原因)なりとする。
(宇井伯壽『佛教辞典』 より引用・一部編集)
もし、業というものがあるのなら・・・
私は、過去に誰かの出家の邪魔をしたのかもしれない。
そのように感じた瞬間があった。
私は、比丘として出家するまでには大変な苦労をした。
まったくもって予定していた通りには進まなかった。
実に紆余曲折であった・・・。
仏教とは関係のない、一種の「こじつけ」なのかもしれないが、タイでの生活を通じて、そしてまたさまざまな出来事との出会いを通じて感じたことをここへ記したい。
それは、「業」というものである。
ご存知の通り、業とは仏教の根幹をなす教義のひとつである。
「自業自得だ。」、「巡り巡って自分に返ってくる。」、「いいことをしたら必ずいいことが返ってくる。」などというような言葉は、現代の日本でもよく耳にする。
タイ人は、そんな日本人以上によく「業」という言葉を口にする。
さらに、「行い」ということについてよく問題にする。
タイ語では、業ことを「ガム」(「カルマ」のタイ語なまり)という。
タイ人が業・「ガム」をよく口にすることについては、
を参照されたい。
タイ人は、なにかにつけて、
「それはお前の過去の業(行い)だ。」
と言う。
冗談混じりの言葉であることもあれば、出会った出来事に対して自己を納得をさせるかのように語られる時もある。
ブッダは、業と輪廻転生の関連性については何も語っていない。
タイ人は、なにかにつけて、
「それはお前の過去の業(行い)だ。」
と言う。
冗談混じりの言葉であることもあれば、出会った出来事に対して自己を納得をさせるかのように語られる時もある。
ブッダは、業と輪廻転生の関連性については何も語っていない。
しかし、「業」つまり「自己の行い」こそが生きていくうえで最も重要で、未来に影響するものであるということは明確に教えている。
仏教では、その後、「業」と輪廻転生について、業によって輪廻転生するという教説が定着していくことになる。
私の出家の話に戻そう。
出家をするためにタイへ来たのに、出家できなかった。
もがけばもがくほど、遠ざかった出家。
この時の心境は文字には表現できない。
この時、私は、
「もし、業というものがあるのなら・・・私は、過去に誰かの出家の邪魔をしたのかもしれない。」
そのように感じた。
そのように感じた。
何の行いの結果なのかはわからない。
しかし、まちがいなく何らかの「力」のようなものを感じた。
この心境を私が親しく教えを受けた師である比丘に話した。
「自然の流れに任せてみなさい。
無理やりものごとをすすめようとしたり、何か“しこり”を残したままものごとをすすめようとすることはよくない。
水に浮かぶ水草のごとく、流れに身を任せてみなさい。
縁に従って生きてみなさい。
きっと、熟する時が来るでしょう。
なにごとも自然な流れのうえにあることですから。
“しこり”を残したまま前へすすめば、いつか表に現れるものです。
前へすすむ時は、ごく自然にすすんでいくものなのです。」
という言葉が返ってきた。
今、悪しき心を起こしてはならない。
悪しき心は、さらに悪しき心を育てるだけだ。
なにごとも自然に。
流れの上に身を任せてみなさい・・・
過去に私が誰かの出家の邪魔をしたのかどうかはわからない。
大切なのは、時期ではないのに無理やり進めようとしたり、しこりを残したまま進めてしまってはいけない。
悪しき心を起こせば、悪しき結果を生むのみ。
なにごとも、楽に、自然にすすめていきなさい。
心の中で「ぎゅーっ」力を込めてつかんでいるものを手放してみなさい。
力を抜いて、そっと手放す・・・そして、縁に任せてみなさい、ということだ、と。
業というものがあるのなら・・・
日本の日常生活の中ででも感じ取ることができることなのかもしれないが、タイという価値観、出家をするという道程のなかで出会い得たことであった。
出家をすることを熱望した道の中でしか出会えなかったことであった。
私は、そのように感じている。
まかぬ種は生えてはこない。
因がなくては縁も果もない。
私にはその因がなかったのだろうか。
最後にその親しく教えを受けた師である比丘から言われた言葉があった。
「比丘になるということは誰にでもできることではあるけれども、誰もが比丘になることができるというわけでもないんだよ。」
未熟な私は、この言葉が心に突き刺さった。
やはり言葉には表現できない心境になった。
この記事をお読みの皆様は、私が師から言われたこの言葉の意味をどのようにお感じになられるだろうか・・・。
⇒タイの山奥の小さな森の寺・・・私はここで出家した。
『私の出家した寺』
関連記事:
『タイ人は自業自得がお好き!?』
(『業というものがあるのなら・・・』)
0 件のコメント:
コメントを投稿