前回の記事で『タイの仏教における「自浄作用」を考える ~高僧の女性問題から見えてくるもの~』と題して、タイの仏教僧伽の自浄作用について記述した。
タイでは、こうした僧侶の不祥事は時々起こることであり、もちろんあってはならないことではあるが、かと言って、特段珍しい事件というわけでもない。
なにぶん、男女の仲を取り沙汰するスキャンダラスな話題というものは、人々の興味を強く惹きるけるのは、古今東西変わるところではないのだろう。
それでは、今回の事件は、なぜ日本にまで聞こえてくるほど大きなニュースとしてとり上げられたのであろうか?
私なりに考察してみようと思う。
注目を集めた理由として、主に3つ、あるいは4つ指摘すべき点がある。
1、著名な寺院での事件である点
タイの寺院には『王立寺院』と呼ばれる格式の高い寺院がある。
今回の事件が起こった寺院は、アユタヤ時代から続く歴史ある寺院であり、現在、王立寺院として位置づけられている。
著名な寺院で起こった事件であるということ自体が、大きな注目を集める要因になったものと考えられる。
2、事件の当事者が一般の僧侶ではなく、住職であり、かつ著名な僧侶であった点
事件を起こした当人が無名の一般僧侶であったのではなく、名のある寺院の住職であり、しかも僧侶として一定の地位と知名度を持っていた点は、注目を集める大きな要因であっただろう。
3、著名なプラクルアン(タイの小仏像、タイのお守りのこと)の製作者であった点
タイにはプラクルアン(พระเครื่อง、通称:プラ)と呼ばれるお守りが広く浸透している。
プラクルアンはお守りであるばかりでなく、公然とした形で収集や取引きの対象にもなっており、専門家や専門誌も多く存在するひとつの大きな市場を形成している。
2で挙げた“著名な僧侶”というのは、このプラクルアンの製作者として一定の知名度を持った僧侶であるという意味である。
私は、この点に注目している。
4、金額が高額である点
今回の事件では、寺院資金をめぐる疑惑の金額が高額である点も、注目を集めた理由の一つであるだろう。
しかしながら、寺院や僧侶が関係する横領事件やマネーロンダリング、土地や不動産などをめぐる事件では、どれも高額であり莫大な金銭が絡む問題になっている。
そのため、今回ばかりが突出して高額であるということはなく、これを理由とするのは難しいように思うが、一応理由として挙げておきたいと思う。
以上が、今回の事件が注目を集めた理由として考えられるのではないかと思う。
特に、今回の事件で最もインパクトが大きかったのは、『“その行為”が映った防犯カメラの映像』がSNS上で拡散されたことにあるだろう。
なんとも現代社会ならではであり、時代を象徴しているように思う。
さて、そうは言いながらも、私は『3』の理由が最も大きかったのではないかと見ている。
日本人にとっては想像できない事柄だと思うし、また日本ではあまり知られていない事柄だと思うので、重複するがもう一度触れておくと、タイにおいてプラクルアンの市場は一大市場となっている。
純粋に『お守り』として持たれるものもあれば、タイではプラクルアンは公然と取引きの対象となっており、収集家をはじめとして専門家や専門誌が数多く存在する。
著名な寺院の著名な僧侶や強い霊力を有するとされる僧侶(あるいは祈祷師)が製作、あるいは祝福したプラクルアンは、収集家の間で非常に高い評価を受けることがある。
日本人の感覚からすると、信仰の対象ないしは信仰の証たるお守りが取引の対象となっていることに大きな違和感を感じるかもしれない。
しかし、タイではそうではない。
小さなお守りが、時には信じられないほどの高額で取引されることがある。
製作年代、製作者、発行寺院、発行部数、どのような経緯で作られて、いつ誰によって祝福されたのか・・・。
こうしたプラクルアンの来歴やさまざまな要素によって、その市場価値は大きく変わってくるのだ。
特に、著名な僧侶が製作したものや、祝福されたものは、信仰上の価値だけでなく、収集品として高く評価されることがある。
日本円にして何万円、何十万円、場合によっては何百万円という高い価格がつくものまであるから驚きだ。
ちなみにタイでは、お守りは人づてに譲り受けたもののほうが、ご利益が高いと言われることがある。
私の手元にもたくさんのお守りがあるのであるが、そのほとんどが、仲良くなったタイ人や親しくなったタイ人からいただいたものばかりだ。
おそらく、私の手元にあるプラクルアンは、市場価値でいえば何の価値もないものばかりだろうと思う。
しかし、どれもタイの人たちが私のことを思い、私のためにと手渡してくれたあたたかな心が籠った大切なお守りばかりである。
人づてに譲り受けたお守りのほうがご利益が高いという話に基づくならば、何十万もする高額なものよりも、私の手元にあるもののほうが遥かにご利益があるのかもしれない。
ともかく、このプラクルアンの『目利き』は、素人では到底難しい世界だと言われている。
それほど、非常に奥が深い世界なのである。
今回の事件の当事者である僧侶は、こうしたプラクルアンの製作者として、タイで名を知られた人物であったらしい。
この点が、他の僧侶の不祥事とは大きく異なる点であるし、私の関心を強く惹いた理由でもある。
この僧侶が関わったプラクルアンが市場で評価されていたことも、今回の事件にさらなるインパクトを与えたのではないだろうか。
今後、この事件によって、彼が携わったプラクルアンの市場での評価や価格に大きな影響が出る可能性が多分にあるだろうと思う。
私がタイに滞在していた頃の不祥事では、村人や信者たちが寺院に、場合によっては徹夜で張り込んで、現行犯で捕まえたという話を新聞か何かで読んだことがある。
それが現代では、防犯カメラで撮影された映像がSNSで拡散されるという時代になった。
なんとも、時の流れを感じさせる出来事であり、時代の象徴であるような気がする出来事だ。
■関連記事
・『タイの仏教における「自浄作用」を考える ~高僧の女性問題から見えてくるもの~』
(2026年10月09日掲載)
■参考文献
・事件の概要
(下記の文献より)
『タイ中部アユタヤ県の由緒ある寺院の元住職(66歳)が、寺院の寄付金など約9200万バーツ(約4億3000万円)を不正流用した疑いなどで逮捕された。さらに、寺院内で47歳の女性と性的な行為をしていた防犯カメラ映像が拡散。捜索では、この2人から現金や金塊など約10億円相当の資産が押収された。高僧は事件後に還俗し、金銭をめぐる容疑は否認している一方、映像の内容は認めているという。警察は、資金の流れや他の関係者についても捜査を続けている。』
・出典
【高僧が寺院で元チアリーダー女性と
行為する防犯カメラ映像が拡散
「ぎゅっと抱きしめ、テーブルの上に仰向けに」
…寄付金など約4億円横領の疑いも【タイ】】
https://news.yahoo.co.jp/articles/0b96993018fde4b30c79c85c05fafbad70da716a
(※10/9現在、記事は削除されている)
https://article.auone.jp/21080690-2898-482f-af82-8da2e71cba01
(※auWebポータル・配信元は上段の記事)
■御礼
・タイのプラクルアンに詳しいHoDaさまにアドバイスをいただきました。今回のニュースについて、タイ現地ではどのように受け止められているのか。また、タイのプラクルアン文化の観点からのお話しをおうかがいさせていただきました。この場を借りて、心より感謝申し上げます。
タイのプラクルアンにご興味のある方は、ぜひHoDaさまのブログ、noteをご覧ください&ぜひフォローしてください。
・アメーバブログ
『タイのお守り プラクルアンに関するネタ「プラ・ネタ」』
https://ameblo.jp/ho-da/
・note
https://note.com/ho_da_616
(『なぜ“この事件”はこれほど大きなニュースになったのか? ~タイのプラクルアン文化から考える~』)
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